🌌夢喰いバクの夜──そっと夢を食べて歩くやさしい獣の話🌌
🐾 バクの棲むところ
バクは、目には見えない場所に棲んでいる。
昼間はきっと、だれの目にも映らない部屋のすみっこや、ぬいぐるみの影、押し入れの奥のまだ開けていない箱の中にひそんでいる。
でも夜になると、バクはそっと出てくる。
誰にも気づかれないように、寝息と寝言の隙間を歩いて、悪い夢のにおいをたどって部屋の中へ入り込む。
ふわり、と夢の影が立ちのぼったら、それをバクはちいさな舌で、やさしくぺろりとひと舐め。
「ちょっと塩っぽい。今日の夢は泣いたあとの味だね」
🌙 バクの仕事は選ばない
バクは、誰の夢でも食べる。 子どもでも、大人でも、おじいさんでも、おばあさんでも、夢を見るかぎり、バクはそこに行く。
たまに、夢の中に入ってしまうこともある。 そういうとき、バクは夢にとけこむ。 道ばたの石になったり、雲になったり、たまにケーキになっていたりする。
夢の住人たちに気づかれないようにして、悪いものだけをそっと回収していく。
「なんでも食べられるわけじゃないけどね。ぜんぶ食べちゃうと、その人の気持ちまで消えちゃうから」
バクは、ただ夢を消すのではない。 夢のなかにある“痛み”だけをやさしくすくっていく。
🐉 バクのはじまり
昔むかし、夜がまだ真っ暗ではなかったころ、バクは“森の調律師”として生まれた。
その頃のバクは、夢なんて食べなかった。 森の音、草のうなり、動物たちの寝息を聴いて、世界の静けさを整えるのがバクの役目だったのだ。
けれどあるとき、人間が“夢”という不思議なものを抱えるようになった。 眠っているのに叫ぶ人、笑って泣く人、目を覚ましても心が重たい人。
バクは思った。 「この夢というものが、夜の静けさを乱しているのかもしれない」
そしてそっと、はじめてひとつの夢を食べてみた。 それは苦くて、甘くて、少し切ない味がした。
でも夢を食べたあと、その人の寝息はすうっと静かになって、森の音がやわらかく戻ってきた。
それからバクは、自分の役目が変わったことに気づいた。 “音を整える”調律師から、“夢を和らげる”夜の旅人へ──。
それが、バクのはじまりだった。
🌠 バクが食べた“特別な夢”
ある晩、バクは不思議な夢のにおいに気づいた。 それは遠くの町の、もうすぐ年老いてこの世を去ろうとしている老人の枕元から立ち上っていた夢だった。
その夢には、色も形もないのに、とても強いぬくもりがあった。
バクがそっと舌先で味見すると、そこには数えきれないほどの“ありがとう”が詰まっていた。
家族の笑顔、友人との語らい、静かな読書の時間、散歩の途中で拾った小石── 小さくて、誰にも気づかれないような、でも確かに心をあたためてくれる記憶のかけらたち。
バクはその夢を、まるごとひとくちに食べた。
それは今までにない、とてもやさしい味だった。 甘さも苦さもなく、ただただ、あたたかい。
食べ終わったあと、バクはしばらくその場から動けなかった。
夢を食べることで、こんなにも心が満たされる夜があるなんて──
それはバクにとっても、忘れられない“特別な夢”になったのだった。
🌧️ ある夜のこと
ある夜、ひとりの子どもが夢の中で泣いていた。
「だれにもきづいてもらえない」 「なにをいっても、とどかない」
小さく丸まって泣くその子の隣に、バクは静かに座った。
「夢のなかで泣くのは、ちょっとつらいよね」
そう言って、バクはその子の夢を少しだけ食べて、少しだけ残した。
全部食べてしまったら、目が覚めたとき“なにかを伝えたかった気持ち”までなくなってしまいそうだったから。
💤 バクが見た夢
ときどき、バクも夢を見る。
それは、自分が小さかった頃の記憶だったり、まだ誰も見たことのない“誰かの未来の夢”だったりする。
ある夜見た夢の中で、バクは真っ白な原っぱを走っていた。 風の音と土のにおい。 どこからか「ありがとう」と「だいじょうぶ」が聞こえてきた。
目が覚めたあと、バクはその夢を誰にも話さなかった。
でも、こう思った。
「きっと、夢って、食べるものじゃなくて、“かさねる”ものなのかもしれない」
🌸 おわりに
バクは今日もどこかで、静かに夢を食べている。
眠れない夜があったら、思い出してみてほしい。
あなたの心の奥にも、きっとバクはそっといてくれる。
そして、こう問いかけてくれるはずだ。
「その夢、ちょっとだけわけてくれない?」
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